LINEヤフーコミュニケーションズはこれまで、主に福岡市・福岡の地場企業とともにLINEを活用した防災課題の解決に取り組んできました。
そしてこの度、2024年の防災の日にあわせて、この福岡市モデルのひとつであるLINEを活用した”予告なし”の避難訓練「とつぜんはじまる避難訓練」が、沖縄県那覇市の総合防災訓練の一環として導入されます。
特設サイト:https://hinankunren-nahacity.com/
この企画は、福岡市で実施した当時、新型コロナウイルス蔓延により訓練に市民を集められないという課題を解決するために生まれました。しかし那覇市では「人を集めずに訓練できる」という利点以外にも、導入に至った理由がありました。福岡市発の取り組みがどのように那覇市にフィットし、アップデートされたのか。主催・監修を担当していただいた那覇市総務部防災危機管理課(以下、那覇市)、日本赤十字看護大学附属災害救護研究所(以下、日赤救護研)にお話を伺いました。
則本:「とつぜんはじまる避難訓練」は、遡ると半年ほど前に、私たちLINEヤフーコミュニケーションズから、那覇市さんへご提案に伺ったことをきっかけにはじまったものでした。提案の発端は、福岡市LINE公式アカウントで「避難行動支援機能」をつくった際に、アドバイスをいただいた日赤救護研の曽篠(当時熊本赤十字病院)さんとの意見交換でしたね。
曽篠氏:はい。私はこれまで、災害時に自助を支援するための技術の研究開発、なかでも平常時の社会課題の解決と、災害対応の両方に役に立つ技術や手法の研究開発に取り組んできました。災害時の救援活動は、その種類や場所、被災地の気候環境、被災者の方々の背景など、千差万別です。1つだけ共通点があるとしたら、「災害発生直後、最初に救援活動を開始するのは、被災地の方々である」ということです。したがって、災害発生直後から被災者方による自助を支援するためには、その技術が災害発生する前から普段使いされておく必要があります。
そこで、当時のLINE Fukuoka(現LINEヤフーコミュニケーションズ)さんに、私たちのアイデアを具現化していただき、災害時の避難行動をシェアする機能を福岡市LINE公式アカウントに追加してもらいました。福岡市LINE公式アカウントは現在、災害時にはいち早く自助を支援する一方、平常時はごみ収集など町の課題解決のツールとして普段使いされています。平常時の社会課題の解決と災害時の自助支援の両方にアプローチできる、理想的なデザインですよね。このソリューションを社会に広めることで、災害時にもっと早く、もっと遠く、もっと多くの被災者の方々の生命を守りたいというのが、私たちの研究チームの思いです。
則本:私もいち福岡市民として日頃からありがたさを感じています。災害時の話ではありませんが、私個人の体験として、以前福岡市内で引越しをしたとき、ごみの日の通知登録のために福岡市LINE公式アカウントを開いたんです。その際に防災情報のメニューが目に入って「そうだ、避難所も確認しておかなきゃ」と新居最寄りの避難所情報をついでに検索し、そのまま母へシェアしたことを思い出しました。今思えば、2つの機能が同じ公式アカウント内にあってシームレスだからこそ、自助に繋がる行動ができていたのですね。
源河さんは「とつぜんはじまる避難訓練」の提案を受けたとき、どのような印象を持っていましたか?
源河氏:当時は普段以上に、市民の防災意識の醸成とそのための取り組みが急務だったので非常に前向きに捉えていました。昨年の台風第6号接近時に発生した大規模停電と県内の物流への影響、令和6年元日に発生した石川県能登半島地震などの災害が頻発していた頃だったんです。さらにご提案以降も、台湾東部地震に起因する津波警報、記録的豪雨災害などが発生していたため、まさに渡りに船のようなご提案でした。
則本:ご提案から実施に至る今日までわずか半年。このスピード感に那覇市さんの推進力の強さを感じました。
源河氏:課題意識が原動力となりましたね。他にも、実働の防災訓練などを実施した際、参加者の年齢層に偏りがみられ、子育て世代や若年層などの若者世代の参加が少ないなどの課題がありました。そのため、オンラインで手軽に参加できる訓練に魅力を感じていたことも一因でした。
則本:今回、福岡市モデルを那覇市さんへ適応するにあたって、ローカライズはもちろん、機能面でも大きく2つの改修を加えました。1つめはさらなる手軽さの追求と、2つめは自分がとる避難行動を身近な人へ共有できる機能を追加したことです。
さらなる手軽さの追求という観点では、シナリオ進行の効率化やコンテンツ内容の抜本的な見直しを行いました。最も大きい変化は、多くの防災行動情報を短時間で理解できるようにビジュアルを用いた点です。オンライン避難訓練は自宅だけでなく、バスや電車の移動中やスーパーの買い物中に参加するパターンも想定されます。集中できない環境下でも、スッと頭に入るような情報提供の工夫は必要不可欠と考えました。
曽篠氏:那覇市役所さんの防災情報ページもビジュアルを用いて、かなりわかりやすくつくりこまれていますよね。ただホームページというかたちである以上、検索して、アクセスして、欲しい情報を探すという手間があるため、なかなか市民の方に見つけてもらえない懸念があります。その点、防災に関する厳選された情報だけを、市民の方々にLINEで発信できるのは効率的ですね。
源河氏:市のホームページだと情報の網羅性も1つの重要な観点なので、情報量の多さもどうしてもハードルになってしまいますね。ただ直近は自治体でも手軽さも重視するようになって、令和4年度及び5年度の本市の市民向けの防災訓練や防災イベントは、極力参加しやすさを重視した内容にしています。そして今回、LINEヤフーコミュニケーションズさんと共同実施するこの「とつぜんはじまる避難訓練」は、その手軽さを重視した那覇市の防災施策の集大成であると考えています。
則本:手軽さと有用性の掛け合わせは三者で最も時間をかけて議論したポイントでしたね。そのかいもあって福岡市モデルからより効果的なシナリオに進化したと感じています。
曽篠氏:自分の避難行動を身近な人へ一度に共有することは、普段のつながりを支えるLINEだからこそ可能な安否確認方法だと思います。
2004年にスマトラ島で津波災害が発生した際のことです。私は福岡赤十字病院の看護師さんを含めた医療チームの一員としてインドネシアに向かいました。掲示板には行方不明になった多くの人々の顔写真や名前が掲載された紙が沢山掲示されており、心を痛めると同時に安否確認を行っている様子を目の当たりにしました。
ミッション終了後の帰国前夜、新たな地震が発生し、私たちが宿泊していたホテルも壁の一部が崩れるほど大きな揺れにさらされました。このとき、私たちは事前に決めていた集合場所に集まりました。その後階段を登り、衛星電話を使って日本の本部にチームの無事を伝えた記憶があります。この経験から、災害発生後、人は避難行動と安否確認行動を自然と行うものだと実感しました。
自分がこれからどこに避難するかを伝えることで、自分は無事だという安否情報、生命を守るための行動(在宅・避難場所への避難)が必要であるという警戒情報を同時にシェアできます。今回の訓練をきっかけとして、「とつぜん」の災害時の避難場所、安否確認の方法などをご家族などで話し合っていただければと思います。
源河氏:さらなる手軽さの追求と、自分がとる避難行動を身近な人へ共有できる機能の追加。この2つのアップデートは、那覇市が抱える防災課題の1つである「子育て世代や若者世代の防災意識の向上」に対する解決度を大いに引き上げてくれました。
則本:最後に、お二方へお聞きします。「とつぜんはじまる避難訓練」についてどのような期待感を持っていますか?
源河氏:この避難訓練はその手軽さや周知のしやすさなどから、今までにない訓練のあり方だと感じています。新しい訓練のかたちのひとつとして、福岡市・那覇市以外の全国の自治体にも展開・定着していくと、新たな価値観を構築するのではないかと期待しています。
またLINEヤフーさんはLINEスタンプやLINEマンガのようなサービスも持っているので、掛け合わせることでさらなる参加者拡大も見込めるのではないでしょうか。
曽篠氏:私たち赤十字では、世界の全ての人々に早いタイミングで警戒情報を伝える体制の構築(Early Warning for All)や、予測に基づいて災害発生前から避難や救援活動を開始する取り組み(Anticipatory Action)を国連機関などと連携して進めています。
「とつぜんはじまる避難訓練」は、行政による警戒情報を、市民の皆様の手で身近な人に届けていただくという、新たなかたちの参加型の早期警戒情報の届け方です。 福岡市で育ち、海を越えて那覇市にシェアされた技術が、今後日本だけではなく、国際的な防災の推進に貢献することを期待しています。