LINEヤフーコミュニケーションズのAI運営部は、LINEヤフー関連のAIサービスの学習データの作成・アノテーション・セールス・カスタマーサポートなどの運営業務を幅広く手掛けています。これまでの経験や、AI関連業務の多様なニーズに対応できる体制を評価いただき、生成AIを活用したSaaSサービスの開発を行う「Gen-AX株式会社(ジェナックス)」との協業が昨年より始まりました。
Gen-AXのプロダクトマネージャー永野玲さんとAI運営部の加藤に、協業の背景や、今年の1月に同社がリリースしたコンタクトセンター向けの生成AI SaaS「X-Boost(クロスブースト)」をはじめとした生成AIサービスが、今後コンタクトセンター業界にどのような変革をもたらすのか伺いました。
ー「Gen-AX」とはどんな会社ですか?
永野:2023年7月に設立されたソフトバンク100%出資のスタートアップです。「自立に自律を融合し、次の“流れ”を生成する」をミッションに、企業のAX(AI Transformation)を支援するべく、生成AIを活用したSaaSプロダクトの開発・提供や、企業のAXを支援するコンサルティングサービスを提供しています。今年の1月より「X-Boost」という、生成AIを活用したカスタマーサポート領域向けのSaaSサービスの提供を開始しました。
ーAI運営部はGen-AXとの協業において何の役割を担っていますか?
加藤:私たちは「X-Boost」のAIの精度を向上させるために学習データの作成とアノテーションを行っています。例えば、生成されたテキストが自然な日本語であるか、適切な回答が提供されているかをテストし、分析と学習を繰り返しています。こうした業務によって、「X-Boost」がユーザーの登録情報に基づいて正確な回答を生成できるようにしています。
ーなぜ、お互いに協業しようと思ったんですか?
永野:実は、当社のCEOと私は、前職でLINE株式会社(現LINEヤフー)のAI事業を担当していました。その時から御社とAIプロダクトの開発で協業してきました。
AI業界は変化が早いため、プロダクトの精神や性質をすぐに理解できるパートナーが必要です。Gen-AXのプロダクト思想にはLINE時代のAIプロダクト開発の影響があり、御社はこれまでの経緯から、すでに我々のプロダクト思想を理解いただく下地ができていると考えました。また、開発の視点に立ってより良くしていこうと積極的に提案をしてくれるオーナーシップや、アノテーション業務やQA、カスタマーサポート、セールスなど、AIサービスの開発部分から販売後の対応まで必要な機能が全て揃っていて、こちらの依頼に柔軟に対応いただけるところも私たちのニーズと合致していました。
相談した際も、経験を活かしてスムーズにプロジェクトを進めることができ、とても助かりました。
加藤:ソフトバンクのグループ全体でAIへの取り組みが強化されている中で、Gen-AXとの協業を通じて最先端のプロダクトに関われることは、AI運営部にとって最新の知見や貴重な業務経験を得る絶好の機会だと考えました。また、これまで私たちが培ってきた経験が、Gen-AXのプロダクトの品質向上に貢献できることも大きな魅力に感じました。
これは個人的な思いになるんですが、私自身が前職を含めてコンタクトセンター業界に20年以上従事しており、ライフワークとして、お世話になったこの業界への貢献方法を日々模索しています。「X-Boost」がコンタクトセンター業界全体にポジティブな影響を与えられるプロダクトであることも、私の中で大きな原動力となりました。」
ー設立してたった4ヶ月のスピード開発で、最初のプロダクト「X-Boost」をリリースされています。どういったサービスなんでしょうか?
永野:「X-Boost」は、コンタクトセンターでの質問応答をAIで支援するサービスです。社内にある回答データやFAQを活用して、回答文を検索したり生成したりします。
WEB問い合わせ対応業務で先行導入した企業様の事例だと、導入前は15分かかっていたのが、導入後は5分にまで短縮できました。
永野:また、操作しやすいインターフェースで、非エンジニアでもノーコードでAIを調整して、自社に適した回答を生成するようにチューニングができるのも特徴です。ブラックボックスになりがちなベテランオペレーターの回答方針やナレッジを学習データにすることで、オペレーターの経験を問わず回答水準を統一することができます。
問い合わせ内容の項目を選択→表示されたFAQの回答の選択→回答案生成の3ステップで回答業務が可能。
加藤:コンタクトセンター業界関係者の観点でお話ししますと、まず業界全体の課題として、人手不足な上に業務が多岐にわたるため、日々対応に追われている現状があります。定型業務を自動化することで、顧客満足やプロダクトの品質向上といった重要な部分にリソースを割けるようになることは業界として大きなメリットです。
さらに、使いやすいUIUXとAIのメンテナンスが簡単なところも業界の課題に根差したアプローチといえます。業界全体が高齢化しており、ITが苦手な方も多いので、直感的に操作できることがDX推進においてとても重要なんです。また、AIは導入して終わりではなく、精度を上げるために継続的なチューニングが必要です。使いにくいインターフェースだと、導入してもチューニングが行われず、AIの精度が上がらなくて結果的に使われなくなる可能性があります。
AIサービスは、オペレーター自身が学習データを成形する必要があるので、これだけ操作が簡単であれば、継続してチューニング作業もできると思います。
ー2025年度では、音声生成AIを活用した「自律思考型AIサービス」をリリースすると発表されています。これは生成AIオペレーターが問い合わせに直接回答するサービスのようですが、生成AIの台頭によって業務効率が進むことで、今後オペレーターの仕事はどのように変わっていくのでしょうか?
永野:コンタクトセンターは、単なる電話応対にとどまらず、問い合わせ内容の記録や分析、サービス部門へのフィードバック、応対体制の見直し、オペレーターの教育など、サービス品質や顧客満足度の向上において重要な役割を果たしています。これまでコストセンターと見られがちだったこの部門ですが、音声生成AIが定型的な電話応対を担うことで、人間のオペレーターはより質の高いサービスに集中できるようになります。「X-Boost」をはじめとする生成AIの導入により、将来的にはオペレーターがAIエージェントの設計や運用に携わる新たなキャリアパスも考えられるでしょう。
加藤:最近、OpenAI社が音声生成AIを活用した新しいプロダクトの開発を発表しました。Gen-AXも音声生成AIを活用した「自律思考型AIサービス」を発表していますが、今後はコンタクトセンター業界に限らず、AI業界全体で音声系生成AIの活用がますます注目されるでしょう。この分野での「自律思考型AI」の進化により、AIが主体的に考え、多くの業務を自動化することで、人間は創造的な業務に集中できるようになります。これにより、コンタクトセンターはより高い付加価値を生み出せるようになると期待しています。
ー最後に、今後のお互いの期待について教えてください。
永野:生成AI技術の進化が加速する中、お客様の要望に応えていくには様々なチャレンジが必要になっています。より早く・確実に・高品質のプロダクトをお客様にお届けするために、これからもワンチームで、LINEヤフーコミュニケーションズさんと新しい取り組みにチャレンジしていきたいと思っています。会社の垣根を超えて、お互いにアイデアを出し合ってより良いプロダクトを作っていきましょう。
加藤:Gen-AXさんが作っているサービス、特に2025年度にリリース予定の、音声生成AIを活用した「自律思考型AIサービス」はコンタクトセンター業界に革命をもたらすプロダクトだと考えています。そんなプロダクトを作っている企業様と一緒に仕事ができていること自体が非常に嬉しいです。今後も、我々も新しい技術を勉強しながら、プロダクト開発の視点を持って共に新しいチャレンジをしていきたいです。ぜひ、どんな課題でも投げかけてください。全力で取り組みます。