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だれもが力を発揮できる組織へ—障がい者雇用推進の1年間

作成者: LINEヤフーコミュニケーションズ編集部|Nov 26, 2025 2:00:00 AM

社会で多様性のある組織づくりへの理解が広がる中、「障がい者雇用」は企業にとって重要なテーマの1つになっています。当社では、2024年4月に、障がい者雇用の推進組織「運営インキュベーションパート」を発足させ、採用から定着支援までを一貫して行う体制を構築。発足から1年で多くの障がい者雇用の仲間を迎えました。このことで個や組織にどのような変化が生まれたのでしょうか。同パートを発足した沼井佑介さんに話を伺いました。

沼井 佑介
バリューマネジメント本部本部長。
LINE Fukuoka(現LINEヤフーコミュニケーションズ)の前身の会社でオペレーションの改善業務などに従事。2013年にLINE Fukuokaへ転籍。現在は、全社横断で業務改善を推進するバリューマネジメント本部を統括するほか、複数の組織のマネジメントも担う。2024年4月 障がい者雇用推進組織「運営インキュベーションパート」を立ち上げる。

障がい者雇用と定着を促進する専門組織発足の背景

――「運営インキュベーションパート」が発足した背景や目的について教えていただけますか?

沼井:当社にはもともと、国籍などを問わず多様な人材を受け入れる文化的な土壌があります。多様性のある組織を目指していましたが、障がい者雇用においては合理的配慮に基づく適切な環境整備が大切です。
さらに、当社は1億人規模のユーザーが利用するサービスの運営を担っています。ユーザーの中にも、さまざまな特性や背景を持つ方々がいらっしゃいます。運営側にも多様な視点を持つメンバーが加わることで、より多くのユーザーに寄り添い、細やかな配慮の行き届いたサービス運営ができると考えています。

こうした背景から、サービス運営領域における特別な採用フローの整備と、入社後の環境づくりを横断的に担う専門組織として「運営インキュベーションパート」を立ち上げました。

寄り添う環境づくりと「ジョブコーチ」による支援体制

――採用や支援体制の構築に向けて、どのようなアクションを取られたのでしょうか?

沼井:さまざまな特性の方がいらっしゃるので、現場の仕事にそのままアサインするのが難しいケースもあります。そこでまず、各部署の責任者とミーティングを行い、組織設立の背景や社会的意義を説明したうえで、「部分的に切り出してお任せできそうな業務」をヒアリングすることから始めました。担当していただけそうな業務が集まったタイミングで、主に福岡県の障がい者就労支援事務所と連携し、採用活動を開始しました。

――採用後の支援体制はいかがですか?

沼井:新たに「社内ジョブコーチ」を設置しました。入社された方々と向き合い、働きやすさやエンゲージメントを高めるためのコーチング、キャリアステップの定義などを整備しています。また、定期的に障がいのある社員が集まるオンラインの交流会を設けるなど、制度面とメンタリング、人と人とのつながりの両面から必要なことを整えていきました。

また、合理的配慮についても、事前にご本人のつまずきやすい点をヒアリングして明文化し、同意のもとで上長など限られた範囲で共有しています。「コミュニケーションはこうしてもらった方が働きやすい」「こういった環境だと仕事がしやすい」といった要望をすり合わせ、1人ひとりにフィットする環境を整えるようにしています。

発足から1年で定着率100%。新たなメンバーが与えた職場への好影響

――組織立ち上げ以降、採用面での変化はありましたか?

沼井:今回、採用拡大をして感じたのは、近年、メンタルヘルス面でサポートを必要とされる方が増えているということです。以前は、障がいのある社員は主にバックオフィスを担当していましたが、立ち上げ以降は、業務領域の幅が広がり、より多様な特性をもつ方々が活躍しています。
担当業務についても、運営インキュベーションパートが介入することで、会社のコア事業であるサービス運営の業務にアサインできるようになりました。ご本人の「ここを配慮してくれたら力をもっと発揮できる」という部分は、制度や配慮でカバーするのを前提に、他の社員と区別することなく、同じように目標やKPIを設定して担当してもらっています。

――職場ではどのような変化が起きていますか?

沼井:「合理的配慮をいかに実現するか」について、みんなで考えるようになりました。例えば、情報伝達の粒度。以前は口頭でフワっと伝えていた指示を、「こういう条件なら◯◯にしてください」などと具体的にして、マニュアル化・文書化して渡して、口頭でも説明するといった具合です。これは、細かく正確な情報があることで安心して働きやすくなる方にとって有効であるのはもちろん、他の社員にとっても情報伝達が正確になり、全体的に良い影響を及ぼしています。

――合理的配慮への視点が、だれもが働きやすい環境づくりに活かされているのですね。そのほかにどういった環境づくりを行いましたか?

沼井:キャリアステップについても、運営部門で働く障がい者雇用の社員を対象に、専用のキャリアラダーを整備しました。
当社は業務の幅が広く、評価指標を全体最適化するとどうしても抽象的になりがちです。
そこで、さまざまな特性を持つ社員が運営業務において自分の成長段階をイメージしやすいよう、「何をすれば次のランクに進めるのか」を具体的な行動基準として言語化しました。
たとえば、「与えられた業務を確実に遂行する」段階から、「業務の前後を理解し、改善提案や気づきを共有できる」段階へとステップアップしていく、というイメージです。
また、社内ジョブコーチの発案で、社内の障がい者手帳をお持ちの方同士をつなぐ「ダイバーシティチャンネル」というコミュニティも作りました。特性に関する悩みや苦手を克服するためのライフハックなどを気軽に相談・共有できる場で、心理的安全性の向上につながっているようです。

――立ち上げから1年、今のところ運営インキュベーションパートの採用から支援までのサポートを受けた障がい者雇用の社員は、定着率100%だと伺いました。その要因は何だとお考えですか?

沼井:複数ありますが、特に大きいのは、採用を始める前に各部署から業務を切り出していただいたことで、組織内に「多様な業務」が用意されている点です。アサインした業務が合わなかった場合、ご本人の適性に合わせてある程度柔軟に切り替えられるようにしています。サポートを受けながら現場部署に直接配属されるケースもありますが、いずれにせよ、働き方や仕事内容の多様性を担保していることが定着につながっていると感じています。

また、社内ジョブコーチの存在も大きな要因です。
ジョブコーチが毎週必ず1on1を行い、ご本人のリアルな状況をキャッチアップしています。また、同僚や上司など周囲からの多角的な意見もジョブコーチが拾い、ご本人と部署の間に齟齬が生まれた時のクッション役として機能しています。このメンタル面のサポート体制が、定着率に大きく寄与しているのは間違いありません。

 だれもが力を発揮できる組織を目指して

――1年間を振り返って、改めて感じる気づきや課題はありますか?

沼井:この1年は、採用と同時に安全衛生管理やキャリアステップの設計など、さまざまな領域で体制を整えてきました。その結果、障がいのある社員が配属された部署では、ジョブコーチの伴走もあって理解が大きく進みました。しかし、こうした取り組みがまだ運営インキュベーションパートに閉じてしまっていて、接点がない組織には認知が広がりにくいと感じています。
最近、障がい者手帳を持っていることを開示せずに入社された方や、入社後に取得された方から相談を受け、ジョブコーチによる定期的なメンタリングを始めるケースが出てきました。労務はもちろんのこと、サポートの選択肢が増えることは大切です。そういう意味でもこの組織の認知を広げることは大事だと感じています。

――最後に、「多様性のある組織」の将来像をどのように考えているのかお聞かせください。

沼井:今は入社時に得意なことや苦手なことを説明していますが、将来的には、障がい者手帳の有無に関係なく、組織の誰もが、お互いの特性に応じて配慮しあえる環境を作りたいと考えています。社会には、手帳の有無にかかわらず「少し配慮やサポートがあれば、もっと力が発揮できる」という人が多く存在します。障がい者雇用をきっかけに、全員が力を発揮できる環境をつくることが、当社の文化的な意味でも推進すべきことだと考えています。

また、事業面でも、LINEヤフーにはさまざまなサービスがあり、多様なユーザーさんにさまざまな使われ方をしていることから、運営側に多様な考え方やバックボーンを持つ人がいるのは当然良いことだと思います。アプリやWebサイトのアクセシビリティテストに、視覚や聴覚に障がいがある方をアサインして、障がいのない方では気づきにくい「当事者の使用感」をプロダクトに反映させる企画にもトライしています。今は「障がい」といわれるような特性を強みとして生かすチャレンジも広げていきたいですね。