ユーザーとともにサービスを育てる。neuetとLINEヤフーコミュニケーションズ、協働を支えた共通の理念とは
まちの課題をLINEヤフーの技術を活用して解決する取り組みを推進中のLINEヤフーコミュニケーションズと、福岡を拠点にシェアサイクルサービス「Charichari(チャリチャリ)」を運営するneuet。
2023年春から展開している協働プロジェクト「おねがいチャリチャリ!"あったらいいな"ポート大募集」の今年度の成果を共同リリースした2月某日、両社のトップが久しぶりに顔を合わせ、まちへの思い、サービスやユーザー、仕事との向き合いかたについて熱く語り合いました。
「分かります」
「そうなんですよ!」
互いに共感しきり、予定時間を過ぎても話題が尽きなかった対談のもようをお届けします。
「おねがいチャリチャリ!"あったらいいな"ポート大募集」プレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000102.000048038.html
家本 賢太郎
neuet株式会社 代表取締役社長
株式会社クララオンライン 代表取締役社長
ほか多数の企業を経営
1981年生まれ、名古屋市出身。11歳で株式市場・経済に興味を持ち、13歳のころからはパソコンやIPネットワークに関心を持つ。15歳で文部省大学入学資格検定に合格。株式会社クララオンラインを設立。多数の要職を歴任している。
鈴木 優輔
LINEヤフーコミュニケーションズ株式会社 代表取締役社長CEO
1976年、福岡県宗像市生まれ。九州大学経済学部卒業。日本電気(NEC)、リクルートメディアコミュニケーションズ(現リクルート)を経て、2014年7月 LINE株式会社、同年10月 LINE Fukuoka株式会社入社。2021年10月に代表取締役社長CEO就任(現職)。
※LINE Fukuokaは2013年10月、LINEヤフーコミュニケーションズに商号変更。
「いっしょに仕事がしたい」 協働前から互いに注目
家本:鈴木さんとの出会いは、私が登壇していた講演会がきっかけでしたよね。
会場に来てくださって、初対面なのにいろいろと話がすすんで、提案もしてくださって。
鈴木:「とにかくいっしょに仕事がしたい」という思いが強すぎて、事前にけっこう準備して行ったんですよ。
やる気満々過ぎたら気持ち悪いかな、って自然に見えるように気をつけたりして(笑)
うちのチームのメンバーも何人か引き連れて行きました。
実は、社内で仕事をするとき、普段から「チャリチャリみたいな」という表現をよく使っているんです。
家本:えっ、嬉しい!
ちなみに「チャリチャリみたいな」って、どういうときに言っていただいているんですか?
鈴木:商品づくりも、サービスづくりも、組織づくりもそうなんですが、
ユーザーに応援される、ユーザーといっしょにつくっていくっていうことを私たちも大切にしていて、
チャリチャリはそういう意味で、我々のコンセプトを体現する会社だと思うんですよね。
そういうことを伝えたいときの言い回しですね。
家本:私も鈴木さんたちの福岡市との事例などを拝見していて、以前からすごくいいなって思っていました。たとえば私自身も使っていた道路とかの通報の機能。
通報したい場所や状況がしっかり伝えられる、というユーザーとしての体験もそうですが、
福岡市の人たちの話を聞いてみると、市側でもこの機能があることによって動きが変わっている。
両方ポジティブな変化があるじゃんっていうのがすごいなと。
どうやったら接点を持たせていただけるかな、って思っていて(笑)
だから、この出会いはものすごく嬉しかったですね。
市民が道路や公園などの不具合を市に通報できる福岡市LINE公式アカウントの「道路公園等通報」機能
月平均 約110件の通報が寄せられる(2019~2021年実績)
LINEの強みでチャリチャリの困りごとに向き合った
「おねがいチャリチャリ」プロジェクト
このときの対話がきっかけで、neuet と LINEヤフーコミュニケーションズ(当時はLINE Fukuoka)スマートシティ本部のコラボレーションはトントン拍子にすすむ。
2023年4月、チャリチャリの駐輪ポートの新設をユーザーがLINE公式アカウントからリクエストできる「おねがいチャリチャリ!"あったらいいな"ポート大募集」プロジェクトのスタートを発表。
講演会からわずか3か月でのリリースとなった。
「ポートがあったらいいな」と思う場所を位置情報や写真を添えてユーザーが簡単にリクエストできる仕組み
福岡市LINE公式アカウントの「道路公園等通報」のノウハウを民間企業で活用した初めての事例
家本:とにかく、実現までのスピード感がすごかったですよね。「何か一緒にやりましょうよ!」って話になっても、世の中の仕事の話の99.9%は、そのまま立ち消えるじゃないですか。そうした中で、どんどん話が具体化できて実現に移せたのはすごくレアなケースです。ご一緒することが決まるのも、かたちになるまでもめちゃめちゃ早くて。
鈴木:講演会でお会いしてからやっと1年というところですが、今日、家本さんといっしょに、「おねがいチャリチャリ!"あったらいいな"ポート大募集」キャンペーンのここまでの成果をご報告できました。
記者発表でも言ったんですが、「こんな嬉しい報告ができるなんて!」、という気持ちです。
多くのユーザーから5,000件というたくさんのリクエストをいただいたことも、
それがきっかけで皆さんに役立てていただけるポートが増えたことも本当に嬉しいんですが、
もうひとつ、福岡で愛されるサービスのチャリチャリに、
LINEの強みを生かして貢献できたことがすごく嬉しいんです。
LINEの強みの一つは 多くのユーザーに使っていただけていること、「友だち」になっていただけていることです。年代、地域、生活のかたちもさまざまな約9,600万人(※)のユーザーが、毎日使ってくれています。
日常のツールになっているから、こういう取り組みをしようというときに新たな専用のアプリをダウンロードする必要がなくて、いつものLINEで気軽にリクエストができるんですね。
※LINEアプリ 月間アクティブユーザー2023年12月末時点
「友だち」のように愛されているチャリチャリのサービスとユーザーをつないだのが LINEだったからこそ
「友だち」感覚でポートをリクエストできたのかな、と思っています。
ほんと、よかったなあ……
家本:ポート設置のリクエストはこの企画以前もたくさんいただいていたんですが、「これって氷山の一角じゃないかな」というところがずっと気になっていました。
電話やメールフォームからリクエストをしてくれる人、営業スタッフに「ここのポートがほしい」といってくれる人、すでにたくさんいるんだけど、私たちから見えていない水面下には、リクエストに至らなかったもっとたくさんの聞けていないニーズがあるわけで。
ユーザーにわざわざ別のアプリをダウンロードしてもらうのってとてもハードルが高いんですが、LINEならその点をクリアできる。リクエストをいただけるチャンスが増えるんです。
バラバラにいただいたリクエストを集約するのもすごく大変でしたし、設置ニーズの把握はそうしたリクエストと利用実績からの推測でした。
こうした私たちの困りごとや課題を、最初のコミュニケーションでしっかりと引き出してくださったと感じています。ありがとうございました。
鈴木:よかったです。「LINEだから大丈夫です!」ってご提案してますからね(笑)
ユーザーの皆さんからたくさんリクエストが集まって、ぼくが一番ほっとしたかもしれません。
ユーザーからのリクエストをもとに15の新規ポートが設置された
「おねがいチャリチャリ」で生まれた姪浜駅のポートは開設2か月で発着数が県内7位に
どんな事業にも欠くことができないのは
チャリチャリは事業開始から6年、
LINEヤフーコミュニケーションズはLINE Fukuokaとして誕生してから今年で10年。
大切にしている考えかたについて深掘りすると、
二人の口からまったく同じキーワードが飛び出した。
家本:考え続けてきたのは、「どうしたら、その地域の人たちに愛していただけるか」ってこと。
えっと、つまり、「愛」なんです。
愛って、双方向じゃないとだめだと私は思っています。「愛してね」って言っても、愛されるものじゃない。自分から注いで初めて返ってくるものだと。チャリチャリのサービスもしかり。
チャリチャリは、拠点を置く福岡を「マザーシティ」と位置づけています。事業をはじめたころからずっとこのまちでチャレンジを続けてきました。
皆さんに支えていただいて、理解してもらって、サービスを利用していただいている。その愛を、ちゃんと愛で返したいと思い続けてきたからこそ、今があるように思います。
鈴木:そう、「愛」なんですよね。
家本さんの口から出てきてびっくりしたんですが、「愛」は私たちもいつも使っているキーワードです。
結局、仕事をする人が相手に愛を持ってないと意味がない。
自分が愛しているものなら大事にしたいし、大切に育てたいですよね。
私も、どんな事業にも、まずそこに愛や情熱がないといけないと思っています。
家本:鈴木さんと最初に話したとき、福岡というまちに対して愛があるんだと強く感じたし、プロジェクトをかたちにする中で、メンバーのみなさんも同じ熱量をお持ちだとわかりました。2社が共同でプロジェクトをすすめるときに、これだけ双方の現場で熱量が上がるケースはめったにないことです。トップ同士が決めたから実行するというのではなく、双方のチームメンバー全員が、福岡というまちに対して愛を持ってすすめられたからこそ、うまくいったんじゃないかなと思いました。
鈴木:ユーザーの皆さんも、同じ思いでいてくださっていたんだと思います。
自分が使っている「チャリチャリ」というサービスに対して「もっと良くなってほしい」「応援したい」と思っていてくれた。自分ごと化ともいえるかもしれません。
「チャリチャリ」を「自分のものだ」と感じて使ってくれているから、そこには「愛」や「情熱」がある。それがすごく大きいと思います。
「友だち」の視点で考え 「友だち」とともにサービスをつくる
家本社長は、2022年にプロバスケットボールB3リーグに参戦した「東京ユナイテッドバスケットボールクラブ(TUBC)」の代表取締役会長でもある。
2023年10月に開催された2023-2024シーズン第2節 GAME1、TUBCの入場者数は10,358名。
B1、B2、B3リーグ通算での最多入場者数を更新した。
鈴木:バスケットボールのチームの運営って、これもやっぱりファンを……、「友だち」をつくっていく仕事ですよね。
家本さんは「友だち」づくりに長けていらっしゃるイメージがあるんです。
何か極意のようなものがありますか。
家本:そんなにすごい魔法みたいなことはあるわけではないんですが。
チャリチャリにもバスケットボールチームにも共通していることは、ゼロからの姿をみんなに見てもらって、まさに一緒につくり上げていっていただく、あるいは自分のものだと感じていただけるようになること。
自転車ならちゃんと乗れるのが大事だし、バスケだとちゃんと試合が成立するのが大前提です。でも、そこに抒情的価値が存在することが大切なんじゃないかと思います。
自分が「好き」だとか「体験したい」とか。
ぼく、自分のことを「ポートおじさん」って言ってるんですが、自転車もそうだし、部品もそうだし、どこにポートがあったら便利かもそうだし……、とにかくユーザー側の視点に立って考え尽くします。
いや、「視点に立つ」って程度ではまったく足りない。
サービスを提供する側の視点は捨てて、もう完全に、お客さまの視点になって考えますね。
鈴木:どれくらいお客さん来るかな、来てほしいな、ファンを増やしたいな、みたいな視点に寄りがちだけど、そうじゃなくて、単純に自分が行くとしたら何があったら楽しいかなとか、何だったら行きたいかな、みたいな感じになりきっちゃってるんですね。
家本:もう、それをひたすらやり続けているだけなんですよ。
鈴木:私も、サービスを考えるにあたって意識していることがあって。
LINEヤフーコミュニケーションズの社員って、サービス提供者という以前に、そもそもみんながLINEのユーザーなんですよね。顧客の属性が多様なので、ともすると「いかにしてたくさんの人にサービスを届けるか」という発想になりがちなのですが、まず大事なのは「自分が使いたいか」、そして「友だちにすすめたいか」。
たとえば、ごみの収集スケジュールを通知してくれる福岡市のLINE公式アカウントをつくったとき、私が成功の一つの基準、KGIにしてたのは、「妻が友だちからこのサービスのことをおすすめしてもらえるかどうか」でした。
そうなればみんなの生活の中に広まっているということだし、
その人にとっては友だちにすすめるくらいに「自分のもの」になっているということだと思うんです。
結果的に、妻経由で皆さんの声がちゃんと私に届いたのですごく安心しました(笑)。
家本:そこには「優しさ」がありますよね。
私は、今まで27年間仕事をしてきて、自分が知らないお客さまにこれほどサービスを使っていただくビジネスは、実はチャリチャリが初めてなんです。ビジネスには数字や事業計画みたいなきっちりとしたものも大事なんだけど、もう少し「優しさ」あるいは「やわらかさ」を持ちたいなと、率直に感じています。
鈴木:LINEでいうと、「優しさ」がない状態で収益だけを考えたとしたら、広告ばかりを増やすことになるでしょう。そうしたらユーザーにとっては使いにくくなる。そうなると、いっしょにサービスを育めなくなっちゃうんですよね。
でも、愛が伝わってファンになってもらえると全然違う。
さっき家本さんが挙げてくれた福岡市の通報機能でいうと、
ユーザーが「ガードレールが壊れてるよ」とか「電灯が消えてるよ」とかわざわざ教えてくれる。
市の職員でもない。
お金をもらってるわけでもない。
単純に自分のまちを良くしようという気持ちで情報をくださるわけです。
これがもう まさに、一緒にサービスをつくってる状態ですよね。
家本:バスケットボールの試合でもそうですよ。
観客を何十人も集めてくださったり、会場でルールをわかりやすく説明してくださったり。
そうなると、リクエストみたいなことも「文句」や「クレーム」じゃなくって、「こうなったらいいな」「これが実現できたら嬉しいな」と、笑顔で要望や希望を伝えてくれる状態になる。
鈴木:「おねがいチャリチャリ」もそう。
チャリチャリや自分のまちが好きで、自分ごとになってるから
「ここにポートがあると便利だよ」ってわざわざリクエストしてくれるんだと思います。
私は、これからもこういうサービスをもっとつくっていきたいんです。
これから
写真撮影のため場所を移してからも 話題が尽きず、対談は1時間拡大に
鈴木:この仕事をするにあたって、自分はここが人とは違う、他社とは違う、と思う部分ってありますか?
家本:現場がすべて。
映像や文字だけでは伝えられないことがある、というのが私の基本的な考えです。
まずは、いろんな角度からその地域を知り、本当に自分が好きになること。これからのビジネスには、これが欠かせないと考えています。今まで参考にしてきた20世紀後半のビジネスの教科書で考えるような、“地域戦略”とか“地方交通”とか、そういうことじゃない。まちとの向き合い方、付き合い方、腕の組み方を変えていく段階に来てるんだと思っています。
外に出てまちを感じて、イメージを膨らませていく。その思考回数の違いなのではないでしょうか。
今回のコラボレーションだって、現場で鈴木さんに会ってスタートしましたしね。
それと、「愛」ですね。
鈴木:やっぱり「愛」ですよね。
家本:取材でも、チャリチャリと同業他社との差別化要因について聞かれることがよくあります。
昔はね、料金体系の違いとか、事業モデルの差みたいなことを真面目に答えてたんですよ。
でも今は、「地域に対する『愛』が明確に、圧倒的に違います」って話してます。
戦略的な話はせずに。
鈴木:今日何回「愛」って言ったかな(笑)
でも本当に共感します。
チャリチャリは日本全国に進出されていて、これからも愛の輪は広がっていきますね。
楽しみにしています。
ぜひこれからもご一緒しましょう。
家本:今後ともよろしくおねがいします!
2024年4月からは、福岡県久留米市でもチャリチャリが利用できるようになります。
中核都市での展開は初めてのチャレンジ。
楽しみで仕方ないですね。