「出前授業」を「共創」に変えた——福岡の先生たちとLINEヤフーコミュニケーションズが挑んだ授業づくりの舞台裏
企業が学校で行う「出前授業」。
自社の強みを活かした教材で「非日常」の体験を提供するこの形は、学校と企業の双方にとって「定番のスタイル」として定着しており、今や珍しいものではありません。
しかし今回、株式会社LX DESIGN、Fukuoka Smart City Community、EduPorte株式会社が共同で手がける「TEAM学校プロジェクト」は、一般的な出前授業とは異なる進め方でした。企業が用意した教材やプログラムをそのまま持ち込むのではなく、先生たちと設計から一緒に組み立てていったのです。
LINEヤフーコミュニケーションズも、「地域に根ざした社会貢献」として本プロジェクトに参画しました。参画したのは、モニタリング業務を通して、LINEやLINE関連サービスの安心・安全な利用環境を支えるコンテンツモデレーション部のメンバーです。最新のAIシステムと「人の目」を組み合わせ、日々サービス上の投稿や行動を確認しながら、利用者が不安なく使える環境づくりに向き合っています。
本記事では、先生たちの授業設計と私たちの生成AIと向き合う上でのルールと考え方が交わっていった授業づくりの舞台裏を、当日の様子とともにたどります。
先生の一言で、テーマがひっくり返った
すべては、小学校教員として現場に立ち、現在は行政職として教育に携わる井手先生の「授業づくりワークショップ」での出会いがきっかけでした。
このワークショップでは、福岡県内の小学校の有志教員と私たちが一つのチームとして同じ机を囲み、授業の狙いから組み立てを一緒に検討していきました。
当初は「コミュニケーション×情報モラル」を軸に、モニタリングの現場で日々向き合っているネット上の課題を、子どもたちの学びにつなげたいと考えていました。しかし、ワークショップに参加していたある先生の一言が、授業の方向性を大きく変えることになります。
「小学校でもAI活用は進んでいます。AIは便利だし、答えもすぐに教えてくれる。でもだからこそ心配なんです」
先生は、現場で日々子どもたちと向き合う教育者としての、切実な思いを口にしました。
「AIに任せきりになって、子どもたちが『人との対話』や『対話から生まれる価値』を忘れてしまわないか」
その言葉は、私たち企業側への問いかけでもありました。
AIの利便性を語るだけでなく、その変化の中で「何を手放してはいけないのか」にも、目を向ける必要がある——。
議論を重ねるうちに、「AI時代だからこそ大切にしたい、人と人のコミュニケーション」という、簡単には答えが出ないテーマが、今回の授業の核心になりました。 
LINEスタンプ制作が目的になりかけた——体験を学びに戻すまで
ここから、具体的な授業設計が動き出しました。
ただ、「学校の授業づくり」と「企業の企画づくり」では、優先する視点が違います。
授業の狙いや時間配分、子どもたちの理解度など、何を軸に組み立てるかを、オープンチャットやオンラインミーティングで何度もすり合わせました。
そして議論の末にたどり着いた題材が、LINE AIを使った「LINEスタンプ制作」です。
目指すゴールは、LINEスタンプ制作を通して「スタンプを作るのはAIでも、どんな言葉で指示するかを決めるのは人間だ」と実感してもらうこと。
子どもたちがみんなで話し合い、知恵を出し合ったからこそ、ひとつのLINEスタンプセットが生まれた——その手触りを残したいと考えました。こうした方向性は、比較的早い段階で共有できていました。
しかし、具体的な検討に入ると、「どの順番で作成するか」「どんなプロンプトを使うか」といった体験を成立させる手段に意識が寄りがちでした。気づけば「LINEスタンプ制作体験」そのものが目的化しそうになる場面も。
それを軌道修正したのは、先生たちでした。議論が「手段」に寄りそうになるたび、先生たちは「導入・展開・終末」という授業の枠組みに立ち返り、アイデアを整理していきました。私たちも、生成AIのルールや考え方を、子どもたちが授業の中で使える表現に置き換え、体験を学びにつなげるゴールを一緒に詰めました。-Feb-25-2026-02-12-59-1615-AM.png?width=1020&height=574&name=%E5%90%8D%E7%A7%B0%E6%9C%AA%E8%A8%AD%E5%AE%9A%E3%81%AE%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3%20(1)-Feb-25-2026-02-12-59-1615-AM.png)
AI体験で終わらせない——教室に散りばめられた工夫
そして迎えた、授業当日。60分という限られた時間の中で、教室には「AIを体験して終わり」にしない仕掛けが散りばめられていました。
教室の空気を一気につかんだのは、先生の「イントロクイズ」でした。
「この音なーんだ?」——LINEの着信音そっくりの口ずさみに「知ってる!」「LINEの音だ!」と声が上がり、笑いが起きます。子どもたちの視線が前にそろったところで、授業が動き出しました。 
授業の進行や問いかけ、教室でのファシリテーションは先生たちが担い、私たちは、生成AIを適切に活用するための考え方やルールを授業の流れに落とし込みました。その最初の一手として共有したのが、生成AIに触れる前の「3つの約束」です。
コンテンツモデレーション部の現場では、なりすましや誹謗中傷、権利侵害といったネット上で「起きてほしくないこと」が、言葉ひとつで実際に起こる場面を日々目にしています。だからこそ、生成AIに触れる前に、子どもたちと大切にしたい姿勢を確認する「3つの約束」から始めました。
① 人のマネをしない(著作権)
② ヒミツを教えない(プライバシー)
③ だれかを傷つけない(モラル)
いよいよ実践です。
ホワイトボードには「プロンプトのヒント」ポスターが貼られ、その隣に子どもたちの言葉が書き足されていきます。発言がその場で可視化されることで、対話が次の対話を呼び、考えが前に進んでいきました。 
LINEスタンプ制作が始まると、各チームの「ミニホワイトボード」が活躍しました。
生成AIの利用は3回までと、人との対話を通して言葉の表現を磨き上げる時間が残るよう、「相談カード」を3枚配りました。プロンプトが固まったら、カードを持って先生に声をかける仕組みです。限られたチャンスを無駄にしないよう、子どもたちは自然とホワイトボードを囲みました。そこから教室のあちこちで、小さな作戦会議が始まりました。
「嬉しい気持ちを伝えるスタンプを作りたいのに、この表情じゃ伝わらない!」「文字を入れてみよう」——。
アイデアを出し合い、言葉にし、試してみる。先生たちの場づくりに、私たちが共有した「3つの約束」が重なり、試行錯誤が対話へとつながっていきました。
LINEスタンプ制作が引き出した、「対話」と「気づき」
授業の終盤には、つくったスタンプや話し合いのプロセスを振り返り、「今日気づいたこと」を自分の言葉で整理する時間が取られました。
授業後、参加した子どもたちからはこんな声が聞こえました。
「生成AIの力だけじゃLINEスタンプは作れなかった。みんなとのコミュニケーションや協力の力で作れた!」
保護者からも、次のような感想が寄せられました。
「AIを活用する上でのマナーやルールを守ることの大切さを学べてよかった」
「LINEスタンプの作成を通して、相手にどのような言葉をかけると良いか考えるきっかけになった」
また、当日の授業を監修した井手先生からは、こんなコメントもいただきました。
井手先生
※Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5つの領域を統合的に学び、実社会の問題発見・解決能力や創造力を養う教育概念
授業の狙いと、対話が深まっていく過程をまとめた井手先生の手書きレポート。
寄せられた言葉からは、この授業での体験が、対話や振り返りを通じて確かな学びへつながっていった様子がうかがえます。
共創で生まれたのは、教材ではなく学びの場だった
今回の授業づくりが「これまでにないチャレンジ」だったのは、企業が用意した教材や進行案をそのまま持ち込むのではなく、先生たちと役割をすり合わせながら、授業をゼロから一緒につくり上げたことにあります。
先生たちが授業を進行し、子どもたちの対話を引き出す。私たちは、現場で培ってきた生成AIを適切に活用するための考え方やルールを、「授業の言葉」にして手渡しました。役割がかみ合った瞬間、教室の空気が変わりました。
「どんな言葉なら相手に届く?」「その言い方で誰かを傷つけない?」——スタンプを「作る」だけでなく、言葉の意味と届け方を考える対話が、教室のあちこちで生まれていったのです。
私たちはこれからも、地域と企業がワンチームとなって、「次世代育成」という全員で向き合うべき大切な課題に取り組んでいきます。