CS現場の暗黙知を生成AIに継承。返信を24時間→1時間以内へ短縮した生成AI×CSの最前線

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LINEヤフーコミュニケーションズでは、LINEヤフーと共同で「生成AIによるメール返信の全自動化プロジェクト」を敢行。その実現を支えたのは、飽くなき試行錯誤と、ユーザーへの価値提供を重視してきたカスタマーサポート(CS)の矜持でした。
プロジェクトに参画した東さんと照屋さんに、AIと人が紡ぐ「新しいCSのカタチ」について伺いました。

【背景】CS現場の「しんどい」を解放し、顧客へ「最速」を届ける挑戦

―まずは、「生成AIによるメール自動返信プロジェクト」の概要と、おふたりが参画された経緯について教えてください。

東さん

東実穂/AIイノベーションパート
2021年にコミュニケーターとして入社、メールでの問い合わせ対応を中心としたCS業務に従事。チャットボットやヘルプページ等、広く改善業務に携わるとともに、生成AIによるメール自動返信プロジェクトに参画。

東:このプロジェクトは、外部ベンダーの生成AI基盤を活用し、メールでのお問い合わせ対応における「内容確認・文面作成・送信」までを一気通貫で自動化する取り組みです。

これまでは、テンプレートはあるにせよ、コミュニケーターが1通ずつメールを作成していました。今回の取り組みは、スピード面でユーザーに価値提供するため、メール対応そのものを自動化して、圧倒的に生産性とユーザー体験を向上させようとするものです。

プロジェクト全体の企画・開発はLINEヤフーのCX推進組織が中心となって進めており、 私たちCSの現場メンバーは、日々の問い合わせ対応で得られる知見を活かしながら、主に運用の視点から導入や改善に携わっています。現場と企画・開発が一体となって取り組んでいる点が、このプロジェクトの大きな特徴です。2024年12月に正式リリースを迎え、それ以降も継続的な改善を行っています。

照屋さん4

照屋和希/機械管理・推進チーム
2019年にコミュニケーターとして入社、SV(スーパーバイザー)を経て、業務企画チームで業務改善提案に取り組む。CSの知見を活かし、生成AIによるメール自動返信プロジェクトに参画。

照屋:私は問い合わせ数削減の施策に携わっていた経緯からプロジェクトにアサインされました。LINEヤフーのCX部門の掲げる「100%の自動返信を実現したい」という構想に共鳴して、「やりたい」と思いました。ユーザーにとっても回答は早いに越したことはないですから。

東:LINEヤフーの各サービスには、メールや電話、チャットボットなどの多様なチャンネルから年間約330万件ものお問い合わせが寄せられています。
私自身、以前コミュニケーターとして現場にいたこともあり、その忙しさを実感していました。だからこそ、プロフェッショナルなスキルを持つメンバーがより持ち味を発揮でき、ユーザーとのコミュニケーションに集中できる環境をつくりたいと思い、業務改善に取り組んできました。その流れで本プロジェクトに加わることになりました。

―現場のメンバーは、CSへのAI導入をどのように受け止めているのでしょうか?

照屋さん2

照屋:CSとしてユーザーとのコミュニケーションに誇りを持っているからこそ、当初は新しい仕組みへの戸惑いの声もありました。しかし、迅速なレスポンスを求めるお客様の声に向き合う中で、「お待たせしないことも大切な誠意の形である」という価値観をチーム全体で共有し、現在の運用へと繋げていくことができました。

【挑戦】AIは「一生独り立ちできない新人」。CSの暗黙知を教育するための試行錯誤

―AIに複雑な対応をさせるために、どのようなCSの知見が役に立ちましたか?

照屋:AIを育てるプロセスは、新人教育と同じです。まずはCSの対応フローをマニュアル化し、それをAIの手順書に落とし込みます。思うように動かなければ、テストして修正する、の繰り返し。フローの分岐を変えてみたり、質問や回答のパターンを変えてみたりしながらAIと向き合い、精度を高めていきました。

―ヘルプページやチャットボットとは何が違うのでしょうか?

照屋:このシステムの強みは、人間のCSが培ってきた暗黙知を学習し、状況に合わせた判断と返答を人間のように再現できる点です。
例えば「キャンセルしたい」という問い合わせに対して、従来のチャットボットだとキャンセルの手順ページを機械的に案内して終わってしまうことがあります。ですが実際には、ユーザーはすでに手続きを終えていて「できているか不安」で連絡しているのかもしれませんよね。
人間のCSは、そうした背景を汲み取り、キャンセル状況を確認したうえで「キャンセル完了しています」または「こちらから手続きしてください」と返答します。このシステムは、その暗黙知を再現し、状況に合った返答を自動で出し分けられるのです。

東さん2

東:実際のお問い合わせには、様々な言い回しや微妙なニュアンスの違いが含まれていますが、CSは「多分、こうおっしゃりたいのだな」と推測して、適切な回答を返すよう意識しています。その知見があったから、ユーザーの立場や迷いを想像しながら、マニュアルや手順書を作成できたのだと思います。

――「キャンセルしたいんだけど」の言葉の裏にある(本当にできているか不安)(返金はいつか)といった意図も汲み取って、一人ひとりの状況に応じた最適な答えを返してきたCSの経験をAIに教え込んだ、ということですね。

照屋:そうです。逆にいえば、その知見がなければ、暗黙知を言語化し、AIに教え込める形に翻訳することはできなかったでしょうね。

 AIは導入して終わりではなく、リリース後もサービスの仕様変更のたびに、手順書を更新しています。フローが多岐にわたるので、1ヶ所の修正でも最適化するのに手間がかかります。AIは「一生独り立ちできない新人」のようなものですね。

【成果と変化】解決時間は24時間→1時間以内へ。生まれた余裕を「人にしかできない仕事」に充てる

―実際に導入して、どのような変化が起きましたか?

照屋:最も劇的な変化はスピードです。これまで24時間以内の回答を一つの指標としていましたが、1時間以内で完了できるようになりました。ユーザーからも「夜中に問い合わせたのにすぐに返信が来てとても助かった」といった声をいただいています。

東:業務の質もシフトしています。AIが初回対応や定型的な処理を担ってくれるおかげで、人間はより複雑な案件に1件1件丁寧に向き合えるようになりました。

照屋さん1照屋:確かに、「朝イチの心理的負担」もかなり改善できましたよね。これまでは夜間に溜まった未処理メールが数百件あったのですが、今はAIが処理してくれているおかげで10分の1程度になっています。

東:これまで忙殺されていた時間を、本当の意味でのユーザー対応に使えるようになりました。AIに任せることで、逆に「人間にしかできない柔軟なコミュニケーション」の価値が浮き彫りになってきたと感じています。

照屋:プロジェクトにあたって、すべてのCS業務を洗い出したことで、複雑なプロセスや無駄な手間の存在にも気づけました。例えば、複数の確認が必要なエラー対応を、ユーザーに代替案を提示してその場で解決できるフローに変更するなど、丸ごと見直せたケースもあります。

【未来とキャリア】「AI vs人間」ではなく「AI×人間」。AX人材へ飛躍

―生成AI導入が業務の最適化のきっかけとなり、トータルでポジティブな進化を遂げているようですが、この経験でご自身の仕事やキャリアに対する視野に変化はありますか?

東さん3東:このプロジェクトを通して、複数のサービスを横断的に見る視点が養われました。個別の事情と全体最適のバランスを見る、マクロな視点を持てたことは大きな成長です。
また、これまでCSのキャリアといえば、SVやリーダーといったライン職が主でしたが、これからはテクノロジーを活用して課題解決する道も広がっていくと感じています。

照屋:日常の業務を見ていても、「これは生成AIで代替できそうだな」という視点が自然と持てるようになり、AX(AI Transformation)人材へと一歩踏み出せたのではないかと感じています。キャリアについても、これまではCSの範囲内で考えていましたが、会社全体を見渡して、企業の価値を広げることに貢献したいと思うようになりました。

―最後に、これからのCSにおける「人とAIの境界線」をどう考えていますか?

照屋さん3

照屋:データ収集や定型業務はAIに任せ、最終的な意思決定や、「どうあるべきか」の判断は人間がやるべきだと考えています。AIに「使われる」のではなく「使いこなす」、そして、新しい価値を生み出そうとするマインドを持ちたいですね。

東:重要なのは境界線を明確にすることではなく、 判断の軸をどこに置くかではないでしょうか。単に「AIにできるか、できないか」で線を引くのではなく、AIができることでも、人が対応することでより価値を提供できたり、教育的価値があったりするのなら、人が担う選択も必要です。生産性とのバランスもとりながら、ユーザーへの価値を基準に考え続けることが大切だと感じています。

 

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