わたしたちの気づき—強みの理解と自信が、個を輝かせる
障がい者雇用の専門部署「運営インキュベーションパート」を発足から1年。専門部署と現場が連携し、障がい者の「特性」を「強み」へと昇華させる取り組みは、業務改善という成果にも現れ始めています。また、スモールステップで成長できる体制を整えることは、当事者の自己効力感を高めるだけでなく、マネジメント側の意識にも影響を与えているようです。障がい者雇用で入社して、システム運営部で活躍中の天本瑠奈さんと、協業先のソーシャルコマース運営部でリーダーを務める濵﨑健太郎さん、そして伴走するジョブコーチの福澤拓弥さんに、採用から活躍に至るプロセスについて話を伺いました。
専門部署とともに「適性」と「適切な業務」を見極める
――まず、天本さんの入社経緯と現在のお仕事について教えてください。
天本:通っていた就労移行支援事業所のイベントでLINEヤフーコミュニケーションズの方に話を伺い、障がい者雇用に熱心なことや、「WOWと!を届ける」という企業理念に魅力を感じ、面接を希望しました。現在は、濵﨑さんの所属するソーシャルコマース部ではLINEギフトの画面チェック業務と、運営コンサルティング部にてSNSなどのユーザーの声を分析するVOC分析と、2つの部署のお仕事を担当しています。

天本 瑠奈
医療系大学で保健衛生学や労働安全衛生を学んだ後に、看護師として4年弱病院勤務。2025年4月にLINEヤフーコミュニケーションズに転職し、運営インキュベーションパートに配属され、ソーシャルコマース部、運営コンサルティング部、AI運営部のサービス運営業務を担当。
――濵﨑さんはどのような経緯で天本さんにその業務をアサインされたのでしょうか。
濵﨑:まず、運営インキュベーションパートの福澤さんから「こういう特性を持った方が入社されますが、その方に依頼できる業務はありませんか」とご相談をいただきました。
そこで、天本さんの特性をお伺いしながら、「何かあった時に我々もフォローができ、プレッシャーがかかりすぎない仕事」で、なおかつ「今、時間が足りず毎日できていない仕事」を検討して、担当してもらうことにしたんです。

濵﨑 健太郎
2022年7月 LINEヤフーコミュニケーションズの前身であるLINE Fukuokaに入社。ソーシャルコマース運営部でLINEギフトのサービス運営を担当。2025年10月にリーダーに昇進。
――「プレッシャーがかからない業務」とは、具体的にどのようなものでしょうか。
濵﨑:私たちの部署はLINEギフトの運営を行っていて、商品の露出を設定する業務を担っています。少しでも間違うとユーザーに多大な影響が出てしまうため、いきなりそこをお願いするのはプレッシャーが大きいと考えました。また、コミュニケーションを取らなければならない相手が多い業務でもあるので、福澤さんとも相談して、まずは報告相手を僕1人に絞り、段階的に関係性を広げていくことにしました。こうして、LINEギフトのサービス画面を見て、価格やリンク先などの情報が正しく掲載されているかをチェックする業務をお願いすることになりました。
――天本さんの強みが発揮されたエピソードはありますか?
濵﨑:天本さんは、私たちが気づけていなかったような細かな点まで、ものすごい集中力と責任感を持って見てくださっています。率直に申し上げて、すごく助かっています。日々のチェックと分析の結果、注意が必要なタイミングに一定の傾向があることが分かりました。
――天本さんご自身は、そうした「違和感への気づき」が得意だと自覚されていましたか?
天本:前職が看護師で、処方された薬剤の間違いや、患者さんのちょっとした異変に気づくことが習慣になっていました。全く違う仕事ですが、その時の習慣が、細かな違和感に気づけることにつながっているのかもしれません。
スモールステップで自信をつけるのが成長の近道
――業務に取り組むうえで、ご自身なりに工夫されていることはありますか?
天本:私は社会人経験が少なかったので、濵﨑さんには「優先順位を整理して、段階的に覚えていきたい」と事前にお伝えしていました。すると、濵﨑さんが「この順番で見ていくといいよ」という資料をつくってくださったんです。それをもとに、自分で確認用のチェックリストをつくりました。終わった箇所をチェックし、表示間違いはメモ欄に記録していく。それが蓄積されると、更新漏れが発生しやすい傾向も予測できるようにもなってきました。

濵﨑:我々は天本さんからの報告を受け、事業部側のLINEヤフーに修正依頼を出すのですが、「本当に助かります」とコメントをいただけています。それだけにとどまらず、「システム的に何か制御する方法を検討できないか」という根本的な改善提案にもつながっています。

天本:訂正箇所の報告も、最初は濵﨑さんだけにしていましたが、今は各業務の担当の方にもチャットで即座にお伝えしています。コミュニケーションの相手が増えることに少し緊張はありましたが、画面の向こうのユーザーが困らないようにと思い、対応のスピードを上げることに取り組んでいます。
人的資源を最大限に活かすカギは「合理的配慮」
――適切な配慮によって天本さんは強みを発揮でき、それ以外の業務へも活躍の幅を広げていかれたようですね。
福澤:ジョブコーチ担当の私からも補足させていただきます。天本さんは当初からVOC*業務にアサインする予定ではあったのですが、まずは得意なことの見極めも兼ねてギフト業務からスタートする形を取りました。ギフト業務でのお仕事ぶりを拝見していて、「天本さんの感性や洞察力は、ユーザーの声を読み解く業務にも活かせそうだ」と感じたので、入社して1ヶ月が過ぎた頃からVOC業務もお願いすることにしたんです。
VOC業務では、SNS上のユーザーの声を丁寧に分析・分類し、週ごとにレポートを作成してくださっています。
ユーザーの気持ちを的確に捉えており、今やVOC業務においても大きな戦力となってくださっています。協業部署からの評価も非常に高いです。その期待値の高さから、現在進行形でVOC業務の担当範囲をスモールステップで広げている最中です。
* Voice of Customerの略

福澤 拓弥
2025年1月 LINEヤフーコミュニケーションズに入社。社内ジョブコーチとして運営インキュベーションパートに配属され、障がい者雇用の社員の採用〜定着・活躍支援を担っている。2025年10月よりアシスタントリーダーに昇進。
――各部署で戦力として期待されている今の状況を、ご自身はどう感じていますか?
天本:やったことを認めてもらえたり、事業部の方から「助かっています」と声をかけていただけたりすることで、「自分もちゃんと人の役に立てるんだ」と自己効力感が高まりました。
入社当初は社会人経験が少なく不安を感じていましたが、濵﨑さんや福澤さんがスモールステップで業務を教えてくださり、見守る姿勢で接してくださったのがありがたかったです。
また、通院時に使える「ノーマライゼーション休暇」があったり、体調に応じて在宅勤務を選べたりすることで、自分の体調を整える時間があるのは本当にありがたいです。
多様な人と共に働く機会が、個も組織も成長させる
――今回の取り組みをとおして、濵﨑さんご自身が気づいたことはありますか?
濵﨑:天本さんに業務を依頼するにあたって 「どうすればより理解してもらえるか、気持ちよく仕事をしてもらえるか」と、すごく考えるようになったんですが、ふと気づいたんです。「これは障がいの有無に関わらず、チームのみんなに対して、この気持ちを持って丁寧に接するべきだよね」と。
これは自分自身の考え方の変化ですが、誰に対してももっとしっかり目をかける必要があるし、業務の進め方に関しても、初見の人が見てもわかるようになってるんだっけ?と考えるきっかけになりました。今、パート内でもマニュアルの整備や、そもそも業務自体をもっと簡素化できないかといったことを検討する動きにつながっています。
――天本さんはアルバイトとして入社され、10月からフルタイムの契約社員になられたそうですね。ご自身の今後の展望をお聞かせください。
天本:入院していた時は、まさか自分がもう一度働けるようになるとは思えませんでした。今、闘病されている方もいるかもしれませんが、この記事がそういう方々の少しでも希望の光になれたら嬉しいです。
私は前職が医療福祉系で、障がい者福祉について学んだ知見もあります。今後はその経験も活かし、当社の障がい者雇用の取り組みを発信していく活動などもお手伝いし、組織に貢献していきたいです。

濵﨑:正直にいえば、私は障がい者の方と一緒に働くのも、部署外に業務を切り出して依頼するのも、全てが初めての経験で、当初はすごく緊張していたんです。でも、天本さんとの事例は、組織にとって貴重な経験になりました。部内外に「業務をお願いしたいけれど、依頼の仕方やコミュニケーションが不安」という人がまだたくさんいるはずです。この経験をもとに、私も「多様な人と共に働く機会」を広げていく力になれたらいいなと思っています。
