家族との原体験が拓いた、社内ジョブコーチへの道
運営インキュベーションパートで社内ジョブコーチとして、障がい者雇用メンバーの定着支援と活躍推進に取り組む福澤拓弥さん。当社障がい者雇用メンバー限定コミュニティ「ダイバーシティチャンネル」の発起人でもあり、「障がい者当事者家族」という側面もお持ちです。コーチングと当事者家族としての視点を融合させ、どのように障がい者社員と伴走しているのか、話を伺いました。
運命を感じた「コーチング×障がい者雇用」というキャリア
――現在のお仕事に就かれた経緯からお聞かせいただけますか?
福澤:私はこれまで10年ほど営業職を経験し、前職でマネジメントを任されたのを機にコーチングの存在を知り、本格的に学びはじめました。相手が自分でも気づいていない願いを対話を通じて見つけ、それを深掘りして腑に落としていく伴走のプロセスが自分に合っていると感じたんです。コーチングに携わりたいと転職を考えていた時、LINEヤフーコミュニケーションズの「障がい者雇用に携わる社内ジョブコーチ」の求人を見つけました

福澤 拓弥
2025年1月 LINEヤフーコミュニケーションズに入社。社内ジョブコーチとして運営インキュベーションパートに配属され、障がい者雇用の社員の採用〜定着・活躍支援を担っている。2025年10月よりアシスタントリーダーに昇進。
実は、障がい者福祉領域の仕事には以前から関心があったんです。重い障がいを持つきょうだいと育ち、幼少期から医療や福祉に触れる機会が多かったため、自然とアンテナが立っていた気がします。
社会人になった当初は、自分の思いをあまり自覚していなかったのですが、当社求人情報の「コーチング×障がい者雇用」という見出しを見た瞬間、運命めいたものを感じて。採用面接でも「学んだコーチングや、障がいのあるご家族がいる背景も強みにしてメンバーと関わってほしい」と言われ、ここでなら自分の経験を存分に活かせると感じました。
現場と障がい者の媒介者となり 「定着」から「活躍」まで伴走
――現在、運営インキュベーションパートで福澤さんが担当されている業務についてお聞かせください。
福澤:障がい者雇用における社員の定着支援と活躍支援に向けたコーチングを担当しています。具体的には、月1回、メンタリング1on1を実施して、その方が感じている課題やコンディションをヒアリングし、ご本人の了承を得たうえで、現場の上長に共有や提案を行っています。その方が安心して仕事ができるように環境を整え、「定着」だけでなく、「活躍」に至るまでのサポートを目指しています。

私が入社した当初は、協業先の社員から「相手の受け止め方がわからないので、どう伝えたらいいか」といった相談を受けることもありました。障がいについて「あまり知らないから踏み込めない」という、ある種の「過剰な配慮」があったように思います。そこを私が少しずつ媒介することで、「思ったより気を使わなくてよかった」という現場の気づきが生まれ、その雪解けが少しずつ進んできているのを感じます。協業先の上長へのアンケートでも「今後のマネジメントに活かせそう」といったお言葉をいただくようになり、現場の意識も確実に変わってきているのではないでしょうか。
ピアサポートの原体験から立ち上げた、当事者限定コミュニティ
――福澤さんは障がい者雇用メンバー限定のオンラインコミュニティ「ダイバーシティチャンネル」の発起人と聞いています。それを立ち上げるに至った経緯について聞かせてください。
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福澤:同じような悩みや経験、境遇を持つ人たちが、お互いに支え合い、安心して働くことができる社会や職場をつくる「ピアサポート文化」に興味を持っていたことが発端です。私自身、学生時代に家族のことを周囲に話せず、何かを隠しているような負い目を感じて悶々としていた時期がありました。ある時、同じ境遇を持つ人が集まるコミュニティがあることを知り、参加するようになりました。同じような境遇の人の「あるある話」をしたり聞いたりするうちに、心がすごく軽くなったのを今でもよく覚えています。そこからは、公私ともにいろんな人と関わる勇気が出て、自分の人生が大きく好転したと感じています。ピアサポートの大切さに気づいた自分の体験をもとに、この会社にもそれを持ち込んでみたいと思ったんです。

また、障がい者雇用のメンバーからも「他にどんな障がい者雇用の人がいるんですか?」と聞かれることが非常に多かったんです。「私、手帳持ってます」って公言できる人はなかなかいませんし、接点もないので、「そういう場があればいいのに」と口を揃えておっしゃっていて。それなら、全員と面識がある私がハブになって場を設けようと、オンライン(ZoomとSlack)でコミュニティの場を構築することを決めました。
――現在はどのように運営されているのでしょうか。
福澤:今は週2回、30分間Zoomで意見交換会を開催しています。Slackはプライベートチャンネルにしていて、私が招待した人だけが加入できる仕組みです。扱うテーマのセンシティブさを考慮し、匿名性を守るため、クローズドな運営を徹底しています。ダイバーシティチャンネルでは、ご自身の体験談をはじめ仕事や生活に役立つライフハック的なものから、特性ならではの困りごとの対処法まで、さまざまな情報交換ができる有意義な場になっています。
半年が過ぎましたが、障がい者雇用メンバーの交流の起点にもなっているようです。嬉しいことに、オフラインの集まりも行われていて、映画やカラオケに行くような関係性も生まれています。部署の垣根を超えた交流が、結果としていろいろな面におけるエンゲージメント向上にもつながればうれしいですね。
――特性のある方ならではの苦手なことを補うためのツールや仕事上の工夫などはあるのでしょうか?
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福澤:スマートウォッチのアラーム機能を使いこなしたり、耳からの情報取得が苦手な特性をZoomの文字起こし機能で補ったり、生成AIを使って思考の整理をしたりするなど、それぞれが工夫をされているようです。
ユニークな話題を一つ挙げると、ダイバーシティチャンネルの中で「脳内交通整理AI(仮)」みたいなものを作れないか」という声が上がっています。頭に浮かんだことをカテゴライズしたり、優先順位をつけてくれたりするAIツールです。これも当事者のリアルな要望から生まれたアイデアで、今、専門領域の人につないで実現可能か検討してもらっています。既存のツールを使うだけでなく、コミュニティの発案で困りごとにフィットさせるツールの開発も進められたら面白いですね。当社ならではの取組だと思います。
「普通」を疑う視点。「合理的配慮」と「過剰な配慮」の線引き
――障がい者メンバーへの向き合い方に、社内ジョブコーチかつ当事者家族としての経験や視点が反映されていることはありますか?
福澤:妹は車いすを使っていますが、何気ない道でも、ほんの少しの段差で車いすが止まってしまう。そういった日常の中の「見えない障壁」に気づく解像度は、きょうだいとの生活で自然と身についたスキルかもしれません。
私は昔から「普通はこうだよね」という言葉があまり好きではありません。受け取り手によっては暴力的に聞こえることさえあると思っています。弟や妹を見ていると、自分のペースで「できている」こと自体にすごく価値があると感じます。だから、社内ジョブコーチとしても「できて当たり前」というものは一つもない、という価値観をベースにしています。
また、「合理的な配慮」と「過剰な配慮」の線引きも常に意識しています。合理的配慮は、あくまでも本人が「こうしてほしい」と申し出たことに対する配慮です。一方、過剰な配慮とは、良かれと思って周囲が先回りしすぎてしまったりすること。もちろん本人が過剰と思わなければいいわけですが、認識のすり合わせのために私たちが間に入ることも重要です。相手を心配しすぎて「あなたは何々が苦手だからこうしようよ」と導くのではなく、本人ができる範囲の中で、「本人がどうなりたいか」を常に気にかけています。
――「普通」を疑い、一人ひとりの「どうなりたいか」に寄り添う。まさにコーチングと当事者家族としての視点が融合したサポートですね。最後に、今後の展望についてお聞かせください。
福澤:障がい者雇用で入社された方の中には、自信が持てず自己肯定感が低い状態からスタートする方も少なくありません。ですが、肝になるのは「言われた業務をただやる」のではなく、本人が納得できる状態で取り組んでいただくこと。よりコーチング的な寄り添い方で、得意なことやチャレンジしたいことを引き出し、定着支援にとどまらず、「活躍」につなげていきたいです。

社会の状況や制度が変わると「障がい」の意味や定義も変わりますし、これだけ世の中が複雑化していくと困難を感じる人が増えるのも必然でしょう。当社なら多様な特性・背景を持つ方々が活躍できるポテンシャルがあるはず。障がい者雇用の体制を整備していけば自然と社員全員に優しい組織構築につながっていくと信じています。今後もこの取り組みを加速させていきたいと思います。